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大分地方裁判所 昭和51年(行ウ)6号 判決

大分市中島中央二丁目三番九号

原告

住吉栄三

右訴訟代理人弁護士

柴田圭一

西田収

大分市中島西一丁目一番

被告

大分税務署長

右指定代理人

中野昌治

中村程寧

入江勝利

樋掛親男

藤井庸夫

田川修

村上久夫

西山俊三

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1. 被告が原告に対してなした昭和四八年一一月一九日付昭和四六年分ならびに昭和四九年二月一六日付昭和四七年分の各所得税の異議申立に対する決定処分は、いずれも取消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の答弁

主文同旨

三  本案の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は大分市において名剌、はがき等の印刷を業とするものである。

2  原告は(一)昭和四六年分の所得金額を金七五万一、七〇〇円、所得税額を金一五万五、〇〇〇円とし、(二)昭和四七年分の所得金額を金八八万六五六円、所得税額を金二万五、五〇〇円として確定申告を行い、右各税額を納付した。

3  被告は右申告に対し、

(一) 昭和四八年六月五日、昭和四六年分の所得金額を金一五四万一、四三四円、所得税額を金一〇万九、三〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を金四、七〇〇円とする賦課処分(以下単に「昭和四六年分賦課処分」という。)を、

(二) 昭和四八年九月七日、昭和四七年分の所得金額を金一六一万八、七一四円、所得税額を金一一万四、六〇〇円とする更正処分、及び過少申告加算税額を金四、四〇〇円とする賦課処分(以下単に「昭和四七年分賦課処分」という。)をそれぞれ行つた。

4  原告は前項各賦課処分の取消を求めて

(一) 昭和四八年八月四日、昭和四六年分の賦課処分に対し、

(二) 昭和四八年一一月七日、昭和四七年分の賦課処分に対し、

それぞれ異議申立をしたところ、被告は右(一)の異議申立につき昭和四八年一一月一九日、右(二)の異議申立につき昭和四九年二月一六日、それぞれ右異議申立を棄却する決定(以下単に「本件各異議申立棄却決定」という。)をした。

5  原告は、更に前記各賦課処分の取消を求めて、国税不服審判所に対し審査請求をしたが、審査請求は棄却された。

6  被告は右異議申立について何ら合理的調査をなさず、しかも、自主申告納税制度の下においては、所得金額や税額を決定するのは主権者である納税者自身であり、納税者が自主的に正しい所得と税額を計算してこれを申告し納税すれば、これにより納税義務が完了するのが原則であり、従つて、申告納税制度の下において、税務当局がその申告を否定し、更正処分を行うにあたつては、具体的な証拠や資料に基づいた合理的理由があり、かつ納税者に対し明らかにされなければならないと原告が主張したにもかかわらず、被告は処分の根拠となつた証拠資料及び推計計算の根拠等の説明を全くしなかつた。

7  被告は本件各異議申立棄却決定において「原告は・・・被告の異議申立についての調査に際して収入および支出を明らかにせず、所得金額の計算に必要な説明も行わず調査に協力しなかつたことが認められ、かかる事情の下にあつては推計計算による所得金額の推計はやむを得ない。」と述べている。

8  被告の本件各異議申立棄却決定は、原告に何ら意見を述べる機会を与えずになされたものであり、行政不服審査法二五条に違反し、違法なものである。

9  また、本件各異議申立棄却決定には理由不備の違法がある。すなわち、行政処分には処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨から理由を付すべものとされる。しかも、本件決定は、更正処分との一般の行政処分と異なり、争訟の裁断的性質をもつ行政行為である。従つて右決定の理由付記の必要性とその程度は一般の行政処分よりも強く求められることは自明のことである。ところが本件各異議申立棄却決定に付された理由は極めて形式的あるいは抽象的であり、法の定める要件を欠いたものであり理由を付したことにならず違法である。

10  よつて原告は本件各異議申立棄却決定の取消を求める。

二  答弁

(本案前の答弁)

本件訴えは、本件各異議申立棄却決定の取消を求めるものであるが、本件各異議申立棄却決定は、国税通則法七五条一項一号に掲げる不服申立に対する処分であり、同法七六条一号にいう「前条の規定による不服申立についてした処分」に該当し、同法による不服申立をすることができない処分であることは同条の規定上明らかなことである。従つて本件各異議申立棄却決定の取消を求めることは、行政事件訴訟法一四条四項にいう「処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合」に該当しないから、その出訴期間は原処分についての審査請求に対する裁決があつたことを知つた日から起算すべきではなく、異議申立に対する決定があつたことを知つた日から三ヶ月以内に訴を提起しなければならない。(最高裁昭和五一年五月六日第一小法廷判決・判例時報八一七号五八ページ)。

ところで原告に対する昭和四六年分所得税の賦課処分に対する異議申立棄却決定は昭和四八年一一月一九日付で、又昭和四七年分所得税の賦課処分に対する異議申立棄均決定は昭和四九年二月一六日付でそれぞれなされており、更に原告は昭和四六年分については昭和四八年一二月五日に、昭和四七年分に対しては昭和四九年三月一六日にそれぞれ審査請求をしているのであるから、原告は、おそくとも各審査請求をした時点において本件各決定がなされたことを知つていたものである。

本件訴えは、昭和五一年八月二五日に提起されたものであるから前記出訴期間を徒過した不適法なものである。

(本案の答弁)

1 請求原因第1ないし第5項は認める。ただし、昭和四七年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分については、国税不服審判所長の決裁によりその一部が取消された。

2 同第6項は否認する。

3 同第7項中、昭和四六年分、同四七年分の所得税の異議申立てを棄却する決定をしたことは認めるが、その他は否認する。「」内は、国税不服審判所長の裁決に記載されたものであつて、本件異議決定の理由とは相異する。

4 同第9項は争う。ただし、行政処分には理由を付すべきである。との一般論は認める。

三  本案前の答弁に対する認否及び原告の主張

1  原告が昭和四六年分の賦課処分に対する異議申立棄却決定があつたことを昭和四八年一二月五日までには知つていたことおよび昭和四七年分の賦課処分に対する異議申立棄却決定のあつたことを昭和四九年三月一六日までには知つていたことをいずれも認める。

2  本件訴えは、異議申立に対する決定処分の取消を求めるものであるが、原告は、本件異議申立棄却決定の通知を受けたのち、適法な期間内に審査請求をなし、本件審査請求棄却裁決のあつた日から三か月以内に本訴を提起したものであるから、本訴は出訴期間を遵守した適法な訴えである。

3  この点で疑問となるのは行政事件訴訟法と国税通則法との関係であるが、行政事件訴訟法第一四条西項は出訴期間について「処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合・・・審査請求をした者については、これに対する裁決があつたことを知つた日又は裁決の日から起算する」と規定されている。国税通則法によれば、異議申立につき税務署長がした決定は、同法七五条一項に掲げる不服申立に対してした処分として同法七六条一号にいう「前条の規定による不服申立・・・についてした処分」に該当し、これに対しては更に審査請求等の不服申立をすることはできないと規定されている。

従つて被告税務署署長の様な見解も考えられるわけである。

4  ところでここで問題となるのは不服申立手続との関係での出訴期間で、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立の形態として「異議申立」と「審査請求」とがある。すなわち、通常の国税に関する処分については原則として、まず処分庁に対して異議申立をなし、その決定を経た後、さらに上級行政庁に対して審査請求をすべきものとして、いわゆる二審構造を採用している。そこで異議申立・審査請求の審査の対象となるのはいずれも税務署署長のなした原処分である。

そしてまず訴訟の前に二段階にわたる不服申立手続をとらねばならない理由として、第一に租税に関する処分は大量的にしかも反覆して行われるものであること、二に争点が事実認定に関するものが多く簡易迅速に処理することの要請が強いこと、三に裁判所における審理を容易にし、かつ裁判所の負担軽減に役立つこと等による。

右の見地から、国税通則法の定めている不服申立主義の内容は、取消訴訟において、異議申立と審査請求の二審制をとつている処分にあつては原則として各審級における決定及び裁決を経なければ出訴することができないとなるのである。従つて本事件においては異議審理庁で原処分に対し右の様な見地から原処分庁の推計課税の当否を、不服審査庁で原処分と異議審理庁の審理の当否が判断されている。

従つて本事件においても原処分について司法上の救済手続をとる前に、適法な行政上の救済を求めているのである。しかもその上で国税不服審判所長の裁決を経た後三ヶ月以内に出訴している。出訴期間の関係で考えれば、適法な行政上の救済を求めているかぎり、その結末を待たないで処分または裁決を基準として出訴期間を認めてその期間内の司法上の救済を強要したり、あるいはその期間経過により処分または裁決に形式的確定力を生じさせる事は不合理である。行政事件訴訟法第一四条四項の立法趣旨も右の理由に基づくものである。

本件は不服審判所における教済の結末を得たのは、取消訴訟提起前三ヶ月以内である。従つて何ら出訴期間の制限に触れることはない。

実質的に考えれば、不服申立により審理された後、取消訴訟において審理の対象となるのは、形式的に考えれば、特定の具体的処分(決定・裁決)そのもののように考えられるが、しかしながら、確かに取消訴訟において特定の具体的処分が取り消されることによつて、その訴訟の目的を達し得ることが多いであろうが、しかし取消訴訟の真の狙いは、当該行政処分によつて生じた違法状態を排除し、もとの状態に回復し、これによつて基本的人権を確保し保障することにあると考えられる。すなわち取消訴訟の目的(訴訟物)が行政処分によつて生じた違法状態の排除にあり、処分の取消を形式上の手がかりとしているにすぎないのである。

従つて不服申立手続において、二段階にわたり行政処分の違法が争われたのであり、出訴期間の関係も、取消訴訟が「決定」か「裁決」を形式上審理の対象にするかで異なつてくるのではないと考えられるのである。

国税通則法の七五条一項、同八六条一号の関係も不服審判所の判断は原処分についてなされるのであり、異議審理庁の判断についてなすものでないことを明記したにすぎないもので、この規定を理由として出訴期間までも制限しているものではない。

従つて、以上の理由により被告の本案前の抗弁は理由はないものと考える。

理由

請求原因1ないし4の各事実および原告が昭和四六年分賦課処分については昭和四八年一二月一五日に、昭和四七年賦課処分については昭和四九年三月一六日に国税不服審判所長に対し審査請求をなし、同所長は右各請求について裁決をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

そこで、被告の本案前の答弁について判断する。

課税処分に対する異議申立てについて税務署長がした決定の取消しを求める訴えは、行政事件訴訟法三条三項にいう「裁決の取消しの訴え」に該当し、裁決の取消訴訟は、裁決があつたことを知つた日から三か月以内に提起しなければならず、裁決の日から一年を経過したときは提起することができないものとされているのであるが(同法一四条一項、三項)、右の出訴期間は、裁決について審査請求をできる場合において、審査請求があつたときはその審査請求をした者については、これに対する裁決があつたことを知つた日から起算することとされているのである(同条四項)しかしながら国税通則法によれば、異議申立てにつき税務署長がした決定は、同法七五条一項一号に掲げる不服申立てに対してした処分として同法七六条一号にいう「前条の規定による不服申立て・・・についてした処分」に該当するから、これに対しては、更に審査請求等の不服申立てをすることができないこととされているのである。したがつて、課税処分に対する異議申立てについて税務署長がした決定の取消しを求める訴えについては、行政事件訴訟法一四条四項の適用はなく、その出訴期間は、異議申立てについての決定があつたことを知つた日から三ヶ月、又は決定の日から一年である(最高裁判所昭和五一年五月六日判決、最高裁判所判例集第三〇巻第四号五四一頁)。

本件において、原告は、おそくとも昭和四八年一二月五日までには、昭和四六年分賦課処分に対する異議申立棄却決定のあつたことを知つており、また、昭和四七年分賦課処分に対する異議申立てについては、おそくとも昭和四九年三月一六日までには、右棄却決定のあつたことを知つていたものであり(このことは当事者間に争いがない。)、本件訴えが、昭和五一年八月二五日に当裁判所に提起されたものであることは、本件記録上明らかであるので、本件訴えは、三ヶ月の出訴期間を徒過していることが明白である。

よつて、本件訴えは不適法なものであるからこれを却下し、訴訟費用については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋正 裁判官 甲斐誠 裁判官 杉山正士)

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